予約アプリを作って気づいた「日本のShopify EC運営者が本当に欲しかったもの」

2026年3月、長く勤めたグローバル企業を辞めて独立しました。最初に世に出したプロダクトが、Shopifyの予約アプリ「まるっと予約」です。あれから約3ヶ月。きょう書きたいのは、リリース3ヶ月目のいま、 いちばん大きかったのは「仮説が外れたこと」だった という話です。
正直に言うと、想定していたメインユーザーには、まだ1件もインストールされていません。代わりに来てくれたのは、ぜんぜん違う業種の方たちでした。最初は焦りましたが、データを並べて見直してみたら、自分が掘り当てたのは思っていたより太い鉱脈だった、というのが現時点での結論です。
これは観察記事ではなく、 わたし自身がまるっと予約の作者として体験している、独立3ヶ月目のリアルな記録 です。インストール数も、ユーザーの業種構成も、戦略転換の判断も、すべてSHIN自身の一次情報として書いています。
仮説はどこから始まったか
そもそもなぜ予約アプリを作ろうと思ったのか。きっかけは独立する1年ほど前、2024年の冬でした。
当時のわたしは、副業的にShopifyのストアをいくつか触っていて、その流れで個人サロンのオーナーさんから相談を受ける機会がありました。 「ホットペッパービューティーの掲載料と手数料がしんどい。でも自社サイト型の予約サービスは、Shopifyとは別運用になるから踏み切れない」 という声です。同じような悩みを、複数の方から聞きました。
ホットペッパービューティーの掲載料はプランやエリアで幅がありますが、業界の解説記事では月額2.5万円前後から数十万円、加えて売上の2%程度の送客手数料が継続的にかかると整理されています。
出典:ホットペッパービューティー 掲載・料金・申込(公式) / サロンナレッジ「ホットペッパービューティーの掲載料金」
ここで頭に浮かんだのが「Shopify本体に予約機能をまるっと埋め込めば、物販と予約をひとつのドメインで完結できて、月額の固定費だけで回せるじゃないか」というアイデアでした。仮説の主役は、最初から最後まで 個人サロンオーナー だったわけです。
リリースして起きたこと
2026年3月17日、まるっと予約をShopify App Storeで公開しました。リリース当日は、App Storeに自分のアプリが並んだのを確認した瞬間、自宅デスクで小さくガッツポーズしたのを覚えています。問題は、そこから先でした。
- 2024年冬
仮説の種:個人サロンの相談
Shopify副業の延長で、個人サロンオーナーから「媒体の手数料がきつい」「自社サイト型は別運用が面倒」という声を複数回聞く。これがそのまま、予約アプリの初期コンセプトになりました。
- 2026年3月
独立 + リリース
グローバル企業を辞めて独立。まるっと予約をShopify App Storeに公開しました。当時のメインターゲットは「ホットペッパービューティーの代替を探している個人サロン」一択です。
- 2026年4月前半
想定外のインストール
リリース1ヶ月で実インストール6件。 ところが内訳は飲食店4件・アパレル2件・サロン0件 でした。仮説と現実のギャップが、想像より大きかったのが正直な感想です。
- 2026年4月後半
ユーザーヒアリングと再分析
実インストールしてくれたストア運営者に話を聞いていくと、共通点が見えてきました。 既存のShopify ECに、単発のイベント予約を後付けしたい というニーズが軸でした。
- 2026年4月末
戦略転換 Option B
メインターゲットを「Shopify EC運営者の単発イベント予約」に切り替え。LP・CTA・ブログの軸を一斉に書き換えました。サロン向けはサブターゲットとして残す、ハイブリッド方針です。
想定ユーザーと実ユーザーのギャップ
数字に並べると、ここまではっきり違うのかと、自分でも驚きました。
数だけ見ると小さく見えるかもしれません。でもソロプレナーにとって、最初の6件は「データの粒度が見える最小単位」です。1件1件ヒアリングできる規模だからこそ、仮説と現実のずれを、抽象論ではなく具体で見ることができました。
メインユーザーは 個人サロンオーナー 。媒体型予約サービスからの乗り換えニーズが軸。Shopifyへの移行をまるごと支援するUXが刺さるはず、という前提で、機能・LP・記事をすべて設計していました。
実ユーザーは Shopify ECを既に運営していて、単発イベントを後付けしたい飲食店とアパレル 。常設の予約システムではなく、 ポップアップ・受注会・体験イベント 用のスポット予約を必要としていました。
ここで一番面白かったのは「予約アプリ」と一括りにしていた市場の中に、 常設型と単発型 という、ぜんぜん性格の違うレイヤーが眠っていたという発見です。仮説を立てていた段階では、わたし自身その区別を意識できていませんでした。
なぜ仮説は外れたのか
冷静に振り返ると、仮説が外れた理由は3つあったと思っています。
逆に、Shopify EC × 単発イベント予約という領域は、競合の主要プレイヤーがほぼ不在でした。Peatixはチケット販売、楽天ビューティーは媒体型、リザービアやSquare 予約は常設サロン向け。誰も真ん中の席に座っていなかったのです。
個人サロンの新規集客は、いまだに媒体経由が大半です。乗り換えは「媒体をやめる」決断とほぼ同義で、決断のハードルが高い。アプリの良し悪し以前に、業界構造そのものがブロッカーになっていました。
Shopifyは物販に強いプラットフォームで、予約だけのために導入する個人サロンは、現時点ではかなり限定的です。母集団の小ささを、わたしは過小評価していました。
媒体型予約サービスの本質は「予約システム」ではなく「集客チャネル」です。それに対して、わたしのアプリは仕組みしか提供していない。 集客は自分で持っているShopify EC運営者 にこそ、価値がフィットする構造だったわけです。
3つ目の理由が腹落ちしたのは、4月中旬にあるアパレルブランドの店主さんから「受注会の予約をShopifyのドメインで受け付けたかった」と言われた瞬間でした。集客はインスタとメルマガで完結している。足りないのは、Shopifyの会員と紐づいた予約フォームだけ。 わたしのアプリは、そういう人のために作られていた のです、結果的に。
ブルーオーシャンの輪郭
ヒアリングを続けるうちに、Shopify EC × 単発イベント予約の市場が、思ったよりはっきり形を持っていることが見えてきました。
期間限定で受注予約と試着予約をまとめたい。Shopifyの顧客と紐づけて、購入履歴のあるVIP優先枠を作りたい。
通常営業はウォークイン中心、月1回のシェフズテーブルやワイン会だけ予約制にしたい。普段はShopifyでお取り寄せを売っている店も多い。
実店舗を持たないブランドが、期間限定スペースで体験会を開く。Shopifyの会員リストへ告知し、予約の枠を絞ってブランド体験を濃くする使い方。
陶芸・アロマ・写真など、商品とセットで体験を売る形態。1回ごとの参加費をShopifyで決済し、予約枠で人数を管理する。
既存ECの優良顧客向けに、指名スタッフとの個別相談予約を提供。タグで会員ランクを絞れば、招待制の予約も成立します。
共通しているのは、 集客チャネルは自前で持っていて、決済と顧客データはすでにShopifyに集約されている という点です。彼らが欲しいのは「集客プラットフォーム」ではなく「Shopifyに馴染む形で、単発イベントの予約だけ受け付けてくれる仕組み」だった。
ここで「あ、これは別の市場だ」と腹落ちしました。常設サロン市場で大手と戦うのではなく、 既存Shopify EC運営者の単発イベント という、競合が薄いレイヤーで先に勝負したほうが、ソロプレナーの体力に合っている。
戦略転換 Option B:ハイブリッド方針
4月末、わたしは方針を Option B(ハイブリッド)に切り替えました。サロン向けを完全に捨てるのではなく、 メインを「Shopify EC + 単発イベント」、サブを「個人サロン」 として並べ直す形です。
Option B(ハイブリッド方針)でやり直したこと:
- LPのファーストビューを「サロン予約」から「Shopify EC × 単発イベント予約」に書き換え
- CTAコピーを「ホットペッパー代替」から「受注会・体験イベントの予約フォーム」へ
- ブログの新規記事をアパレル受注会・飲食店イベント・指名予約の方向にシフト
- サロン向けの記事は残しつつ、サブターゲット扱いに位置づけを変更
- App Storeの説明文も、単発イベント文脈の言葉を中心に書き直し
正直、3月にリリースしたばかりのプロダクトの軸を1ヶ月で書き換えるのは、しんどい判断でした。LP・記事・CTAをすべて書き直すのは、丸2日くらいの作業量があります。それでも切り替えたのは、 データが「向こうに鉱脈がある」と言っているのに、最初の仮説に固執するほうが危険 だと感じたからです。
「予約アプリって、サロン向けばかりで、うちみたいに月1回の受注会だけやりたい店にちょうど合うのが、なかなか無いんですよね。」
ヒアリングしたアパレルブランドの店主さんから
この言葉を聞いた瞬間、自分の解像度が一段上がった感覚がありました。 「ちょうど合う選択肢が無い」というのは、ソロプレナーにとっていちばん美味しい状態 です。大手は手を伸ばさず、競合が薄い。母集団は小さくても、深さがある。独立後の最初の鉱脈としては、これ以上ない条件だと思いました。
独立3ヶ月目で学んだこと
仮説外れの3ヶ月を経て、わたしのなかに残った気づきを3つだけ書きます。
仮説に恋せず、データに耳を澄ます
独立前にいちばん時間をかけて練ったのが、メインターゲットの仮説でした。だからこそ、外れたときに認めるのが一番つらい。それでも、 仮説より実ユーザーのほうが、いつだって正しい 。これは独立して3ヶ月で、いちばん体に染みた感覚です。
想定外を「失敗」ではなく「データ」と見る
サロンに刺さらなかった、と聞くと失敗のように響きます。でもインストールしてくれた飲食店とアパレルの存在は、別のドアを示してくれていました。 想定外を排除せず、観察対象として扱えたかどうかが、その後の戦略転換の早さを決めた と思います。
1ヶ月で軸を書き換えられる軽さは、ソロの最大の武器
会社員時代だったら、メインターゲットの再定義は半年プロジェクトです。ソロなら、データを見て腹落ちしたら、その週末にLPを書き換えられる。 意思決定から実装までの距離の短さ は、競合と戦う上で本当に大きい資産でした。
独立して3ヶ月目のわたしは、まだ確定申告も経験していなければ、長期データもありません。 6件のインストールから戦略を転換した話 も、半年後・1年後に振り返ったら違う結論になっているかもしれません。それでも、 いま書ける一次情報 には、いまにしか書けない手触りがあると思って、こうして残しています。
よくある質問
わたしも最初はそう思いました。ただ、6件中6件にヒアリングできる規模だからこそ、共通項をはっきり言語化できたという面もあります。サロン0件・飲食/アパレル6件という偏りは、サンプルサイズより構造的なシグナルとして読み取れる、と判断しました。データが揃うのを待っていたら、半年は動けません。
いいえ。サブターゲットとして残しています。サロン向け記事も継続して書いていますし、Shopifyを既に使っているサロンには引き続きフィットすると思っています。メインの軸を「Shopify EC × 単発イベント」に置いた上で、サロン向けは「Shopifyを使っているなら最適」という位置づけに変えた、というのが正確です。
たしかに常設サロン市場よりは小さいと思います。ただ、Shopify EC運営者の数は日本国内でも数万単位で、そのうち一定割合が単発イベントをやっている。ソロプレナーが食べていくには十分な規模で、かつ競合が薄いので、ARPUを伸ばす余地が大きい、と見ています。
明確な閾値はありませんでしたが、 ヒアリングで同じ言葉が3回出たとき に動きました。「受注会の予約をShopifyのドメインで受け付けたい」という発言を、別々のブランドから3回聞いた時点で、これは個別の声ではなく構造だ、と判断しました。
ほぼそのまま流用できました。スタッフ指名予約はアパレルのスタイリスト指名にそのまま転用できますし、複数枠管理は飲食店のイベント席管理にも使えます。常設と単発の違いは、機能の差というより「使い方の文脈」の差だった、というのも大きな発見でした。
仮説を立てるのは大事だけれど、 リリースしてからの最初の10件のユーザーが「誰だったか」を、仮説より優先して見る ことだと思います。仮説どおりの人が来なかった時、それを失敗と呼ぶか、新しい仮説の入り口と呼ぶかで、その後の半年が変わります。
使えます。Shopifyを既に使っているサロンには、いまでも普通におすすめできます。ただ、ホットペッパービューティーから乗り換えたい個人サロンには、Shopify自体の導入コストもあるので、慎重に検討したほうがいい、というのが現時点の正直な感想です。
まとめ
- 独立前に立てた「個人サロン向け予約アプリ」という仮説は、リリース1ヶ月で インストール0件 という形で外れた
- 代わりに見えたのは Shopify EC × 単発イベント予約 という、競合が薄く既存EC運営者の課題に直結した市場
- 4月末に Option B(ハイブリッド方針)へ転換し、LP・CTA・ブログの軸を一斉に書き換えた
- 独立3ヶ月目の学びは、 仮説に恋せず、想定外をデータとして扱い、1ヶ月で軸を書き換える軽さを武器にする こと
- 6件という小さなサンプルでも、ヒアリングで同じ言葉が3回出たら、それは個別の声ではなく構造のシグナルとして読む
仮説が外れたとき、最初に湧いてくるのは「どこで間違えたのか」という後悔です。でも3ヶ月経って振り返ると、外れた仮説のおかげで、自分ひとりでは絶対に思いつけなかった鉱脈に辿り着けた、というのが正直な感覚です。データに耳を澄ましてくれたのは、6人の見知らぬストア運営者でした。本当にありがたい話だと思っています。
これから半年、まるっと予約は「Shopify EC運営者の単発イベント予約」を主戦場に、深く育てていくつもりです。アパレル受注会・飲食店イベント・D2Cポップアップ。それぞれのユースケースに合わせた機能と記事を、ひとつずつ積み上げていきます。半年後にまた、違う仮説外れの話を書けたらいいな、と思っています。
2026年5月時点の情報です。インストール数・ユーザー構成は今後変動する可能性があり、戦略方針も継続的に見直していきます。

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