ポッドキャストでECブランドの認知を広げる方法
声の媒体が、ブランドの体温まで運んでくれる。この記事では、広告依存から抜け出したいEC事業者が、ポッドキャストを「ブランドの声」として育てていった一連の流れを、実際の打ち手と数字でたどります。
わたしはShopifyアプリの開発者としてブランドと顧客の接点を設計する仕事をしていて、最近よく聞くのが「SNSや広告に疲れた」という声です。そのなかで、声の媒体にじっくり取り組んで結果を出したブランドの話を、ひとつの型としてまとめました。
課題
ジュエリーブランド「A社」、月商300万円、広告費比率は売上の28%。Meta広告のCPAが半年で1.6倍に悪化し、利益が残らない状態。SNS投稿は毎日続けているが、保存もシェアも伸びず、ブランドの「想い」が届いていない感覚がぬぐえない。
運営しているのは女性2名の小さなチーム。広告を止めた瞬間に売上が消えるという典型的な「広告疲弊」の状態でした。商品は良いのに、価格比較の土俵に乗せられてしまい、ブランドとしての記憶に残らない。オーナーの言葉を借りるなら「毎月ATMに課金しているみたい」な感覚だったそうです。
LTVを伸ばすには、初回購入前にブランドを好きになってもらう必要があります。けれど、テキストのSNS投稿では熱量が薄まり、動画は制作コストが重い。広告では積み上がらない資産 をどう作るかが、チーム全員の宿題になっていました。
打ち手
選んだのはポッドキャストです。理由は3つ。日本国内のリスナーは月間1,680万人規模まで拡大していて、ECの主要購買層である30〜40代に深く届くこと。平均聴取時間が長く、ブランドの文脈ごと伝えられること。そして、競合ブランドがまだほとんど参入していないこと。
出典:オトナル「第5回ポッドキャスト国内利用実態調査」(2025年2月)
番組名は「小さなジュエリーの話」。週1回、15分前後。素材の話、職人さんとのやり取り、お客様からもらった手紙を読む回。売り込みは徹底的に排除して、「聴き終わったあとに、ちょっと誰かに話したくなる」温度感をチームで決めました。
- 広告を止めると売上が即座に落ちる
- 価格・画像で比較される土俵
- ブランドの世界観は伝わりにくい
- CPAはじわじわ悪化し続ける
- 顧客の記憶に残りにくい
- 配信は資産として積み上がる
- ブランドの声で想起される
- 聴取時間が長く文脈ごと届く
- 広告依存を下げて利益率が改善
- リピーターがファン化しやすい
「広告で数字を追うより、声で人に届けたほうが結果として戻ってくる感覚がある」
ポッドキャスト広告に接触したユーザーはディスプレイ広告比でブランド認知が4.4倍高くなる、というデータも、この方針の後押しになりました。
出典:btrax「ポッドキャスト広告がブランドの認知度UPに役立つ3つの理由」
結果
配信開始から12週間。広告費を段階的に下げながら、指名検索とリピート率がじわじわと積み上がりました。
出典:btrax「ポッドキャスト広告がブランドの認知度UPに役立つ3つの理由」
週次のリスナー数は次のように推移しました。初動の3週間は静かですが、4週目以降に明らかな変化が出ています。レビューがレビューを呼び、Spotify内のレコメンドに乗るタイミングで一気に伸びる、というのが共通して見える形です。
広告費は売上比28%から15%まで下がり、粗利ベースでは前年同月比で1.7倍。広告を削ったのに売上が伸びた、というのが一番の収穫でした。米国ではポッドキャスト月間リスナーが人口の47%に達しており、日本でも同じ波が5〜10年遅れで来ているという実感があります。
出典:Edison Research「The Infinite Dial 2024」
再現するには
同じ型をなぞるなら、順番が大事です。機材から入ると続きません。まず番組設計、次に習慣化、最後に音質この順番で固めていきます。
- 1
番組設計(テーマと一言コンセプト)
ターゲットを1人まで絞り、「この人がイヤホンで何を聴きたいか」から逆算します。番組名・テーマ・話す長さを1枚の紙にまとめ、迷ったら立ち返る地図にします。売り込みゼロを前提に、ブランドの価値観を伝える切り口を3つほど用意しておくと、ネタ切れしにくくなります。
- 2
機材は1万円以内で十分
USBコンデンサーマイク(5,000〜8,000円)とポップガード(1,000円程度)があれば、音質はプロに見劣りしません。静かな部屋と、口からマイクまで15cmの距離。これだけで聴きやすさが大きく変わります。最初からスタジオを作ろうとしないことが、続けるコツです。
- 3
収録はワンテイク、編集は最小限
1エピソード15〜20分、台本は箇条書きのみ。言い間違いも人柄として残すくらいでちょうど良いです。編集はノイズ除去とBGM程度に抑え、90分以内で1本仕上がる運用に持っていきます。完璧主義は配信頻度を殺します。
- 4
配信はSpotify for Podcastersに一本化
Spotify for Podcastersに登録すれば、Apple Podcasts・Amazon Music・YouTube Musicに自動で配信されます。無料で分析ダッシュボードも使えるので、最初はここだけで十分です。
- 5
EC導線はショーノートとストア両側に
各エピソードのショーノートに、その回で触れた商品ページのリンクを1つだけ貼ります。逆にShopifyストアのAboutページと商品ページに「この商品の背景を15分で」という番組リンクを置き、両側から行き来できる導線を作ります。
成功のポイントは「売らないこと」です。1エピソードに1メッセージだけ置き、商品紹介は会話の流れで自然に触れる程度にとどめます。聴き終えた人が「このブランド好きだな」と思ってくれたら、指名検索とリピートは後から必ずついてきます。
注意点
ポッドキャスト運用でつまずきやすい4点を、先に共有しておきます。
- 録音品質を軽視すると離脱が激増する。静かな部屋とマイク距離は妥協しないこと
- 週1回の配信頻度を守れないとレコメンドに乗らない。最初に3ヶ月分の収録を貯めておく
- 成果測定はクーポンコードと指名検索流入の2軸で見る。再生数だけを追うと判断を誤る
- 2023年10月施行のステマ規制に準拠し、スポンサー回やPR回は冒頭で明示する
出典:消費者庁「令和5年10月1日施行 ステルスマーケティング規制」
声の媒体には、テキストや画像では届かない熱量があります。わたしがアプリ開発の現場で感じるのは、ブランドと顧客の距離を縮める「接点」は、派手な機能よりも小さな温度の積み重ねで作られるということです。ポッドキャストはその温度を、もっとも素直に運んでくれる手段のひとつだと思っています。

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